「いじめ・嫌がらせの相談が最多」というニュースを見て、それがパワハラ被害の総件数だと思ったことはありませんか。相談統計では、似た言葉でも集計される制度が異なることがあります。

この記事の要点

  • 令和7年度の民事上の個別労働紛争で、いじめ・嫌がらせ相談は55,614件でした
  • 総合労働相談の総数1,198,010件とは対象範囲が違います
  • 労働施策総合推進法に基づくパワハラ相談は別の区分で扱われます
  • 地域別の件数や人口当たりの値だけで、被害の多さを順位付けできません
  • 自分で制度名を確定するより、起きたことと相談経過を具体的に残します
目次(8項目)
  1. 令和7年度の相談は55,614件。何の中での「最多」?
  2. パワハラ相談を別に数える理由
  3. 過去の数字と比べる前に、集計区分を見る
  4. 相談件数が増えた地域は、被害が多い地域?
  5. 社会の数字と、自分に起きたことを分けて残す
  6. 窓口に話すときは、統計上の分類を決めなくてよい
  7. きろくねで、出来事と相談の経過をつなげる
  8. よくある質問

令和7年度の相談は55,614件。何の中での「最多」?

厚生労働省の2026年7月7日公表資料によると、令和7年度の民事上の個別労働関係紛争における「いじめ・嫌がらせ」の相談は55,614件で、この区分で14年連続最多でした。総合労働相談件数は1,198,010件です。

前者は特定の相談区分、後者はより広い労働相談の総数です。「いじめ・嫌がらせが労働相談の全てを占めている」「55,614人が被害認定された」という意味ではありません。

パワハラ相談を別に数える理由

公表資料の注記では、2022年4月の改正労働施策総合推進法の全面施行に伴い、同法に規定する職場のパワハラ相談は同法に基づいて対応すると説明されています。その相談は「民事上の個別労働紛争のいじめ・嫌がらせ」には計上されず、総合労働相談の別区分に含まれます。

そのため、55,614件を「全国のパワハラ相談総数」と紹介することはできません。別制度の集計を足す場合にも、対象と重複の扱いを確認する必要があります。記事では、窓口の対応件数から被害者の人数を推計していません。

過去の数字と比べる前に、集計区分を見る

数字の増減を見るときは、件数だけでなく「何を含み、何を含まなくなったか」を確かめます。途中で集計区分が変わっていれば、同じ言葉の列でも、そのまま長期の増減を比べられるとは限りません。

読み解く順番は、資料名、年度、表の見出し、脚注です。SNSの図だけを保存するより、出典ページと脚注まで一緒に読める形で確認すると、後から誤解を修正しやすくなります。

相談件数が増えた地域は、被害が多い地域?

地域別の相談件数が多い、あるいは前年比で増えたという数字だけでは、その地域の被害が多いとは判断できません。分かるのは、まず、その資料が対象とする窓口や制度で集計された相談の状況です。窓口に現れなかった困りごとまで数えた調査ではありません。

比べる前に、「どの地域の人を数えたのか」と「どこの窓口で受け付けたのか」を区別します。労働局の受付実績を、その地域に住む被害者の人数と置き換えないことが大切です。受付対象や集計方法の説明が見つからなければ、比較の限界として残します。

比較するときに確認する5項目

次は編集部が作成した確認表です。地域ごとの実態を採点する表ではなく、二つの資料を同じ条件で読めるか確かめるためのものです。

確認項目

資料で確かめること

年度・期間

年度と暦年、通年と途中経過を混ぜていないか。

制度・相談内容

総合労働相談全体か、民事上のいじめ・嫌がらせか、別法のパワハラ相談か。

数え方

相談件数、内訳延べ件数、相談者の実人数のどれか。

受付の範囲

対象窓口、受付方法、開設・統合などの変更が注記されているか。

比較の分母

人口や働く人の数を使う場合、件数の対象地域・対象者・時期と対応しているか。

一つでも条件が不明なら、件数の差は示せても、被害の多さを比べる根拠にはしません。窓口の周知や受付方法の変化は、追加で確かめたい要因です。今回の統計だけで、特定地域の増加原因をそこに求めることはできません。

架空例:100件から120件への増加をどう読むか

同じ相談区分で、ある地域の年間件数が100件から120件になったと仮定します。増加率は20%ですが、この数字だけで「被害者が20%増えた」とは言えません。これは計算の説明用の架空例であり、実在する地域のデータではありません。

実際の全国資料では、1回の相談が複数の内容にまたがると、内訳には複数の相談内容を計上すると注記されています。例えば、同じ相談で二つの相談内容が記録されることと、二人が相談したことは別です。厚生労働省の令和7年度資料4ページ(相談内容別の件数と脚注)で、数え方を確認できます。

人口で割って「人口当たりの相談件数」にしても、相談が被害者の実人数になるわけではありません。地域の規模を考えるための補助的な値と、被害の発生割合を分けて読みます。受付の範囲が違う資料同士では、分母をそろえるだけで比較の問題が解消するとは限りません。

社会の数字と、自分に起きたことを分けて残す

地域の相談件数が少ないからといって、自分の困りごとを小さく扱う必要はありません。相談先に話す際は、地域の順位を根拠にするより、自分が直接経験したことと、読んだ資料の情報を分けると伝えやすくなります。

記入例(架空):9月10日、会議中に担当業務の変更を告げられた。理由を尋ねたところ「後で説明する」と言われた。その日の終業時までに追加の説明は確認できていない。

自分の気持ち:次に何をすればよいか分からず、不安だった。

調べたこと・未確認:地域の相談件数の記事を読んだが、自分の出来事がどの制度の対象になるかは未確認。窓口では、今の状況を説明して相談先を確認したい。

きろくねのメモにも、このように出来事・気持ち・調べた情報を文章で書き分けられます。これは記入方法の提案で、アプリに専用の統計比較欄があるという意味ではありません。記録を完成させることを、相談を始める条件にしなくて構いません。

窓口に話すときは、統計上の分類を決めなくてよい

相談する側が、どの法律のどの集計に入るかを判断してから連絡する必要はありません。起きたことと、今困っていることを具体的に伝え、利用できる窓口や制度を確認します。総合労働相談コーナーは、さまざまな労働問題の相談を扱っています。

説明を始める架空例:「上司とのやり取りについて相談したいです。9月から担当変更が続き、理由を尋ねても説明が分かりません。社内で一度相談しましたが、次の連絡予定が決まっていません」。このように、相談歴も添えると、何を確認したいかが伝わります。

きろくねで、出来事と相談の経過をつなげる

きろくねでは、出来事のメモと相談後のメモを同じケースにまとめ、時系列で見返せます。「いつ・誰に・何を相談したか」「どのような回答だったか」「次に確認すること」を自分で書いておけば、別の窓口で同じ経緯を説明するときにも戻れる記録になります。

音声や写真を使う場合は、残してよい状況・資料かを確認し、相談先に見せる範囲を選んでください。iPhone版きろくねで一件ずつ残せます。相談対応そのものや、法的な判断をアプリが行うわけではありません。

窓口へ持っていく内容は労働局への相談準備、社内で話した後は相談後の記録を参照してください。

出典確認日:2026年9月10日。件数は令和7年度の公表値です。

きろくねは記録を助ける道具です。診断・認定・法的な判断は行いません。

よくある質問

55,614件はパワハラの被害件数ですか?

いいえ。令和7年度の民事上の個別労働紛争における、いじめ・嫌がらせの相談件数です。法に基づくパワハラ相談全体や被害認定件数とは異なります。

相談が最多ということは、被害が増え続けているのですか?

最多という順位だけでは、被害の増減は判断できません。相談の利用状況、集計区分、対象年度などを確認する必要があります。

自分の相談がどの制度になるか分かりません。

具体的な出来事と希望を伝え、窓口で制度や担当を確認できます。法的な分類を自分で決めてから相談する必要はありません。

地域別の件数で、ハラスメントが多い県を選べますか?

相談件数だけでは判断できません。年度、制度、数え方、受付の範囲などを確認する必要があります。相談窓口の受付実績を、その地域の被害者数や被害の発生割合と読み替えないでください。

人口当たりの相談件数なら比較してよいですか?

地域の規模を考える補助にはなりますが、被害の発生割合ではありません。相談の対象と人口の範囲が対応しているか、集計方法がそろっているかも確認し、条件が不明な場合は比較の限界として残します。

出典・参考

相談の種類を分けた二つのトレー

きろくねは記録を助ける道具です。診断・認定・法的な判断は行いません。危険やつらさが強いときは、公的な窓口や専門家への相談もご検討ください。